Skip to content

Published in: #MMVR

【#MMVR】天草からキセキノサキヘ monecco5の挑戦




「MMVR」とは「MIKAN MUSIC VIDEO REVIEW」の略。主にインターネット上に公開されているアイドルのミュージックビデオ(または音源)についてレビューするコーナーとなります。今回はたきび( @takibi110 )さんから寄稿していただきました、「天草からキセキノサキヘ monecco5の挑戦」です。

■DATA
動画URL:https://www.youtube.com/watch?v=EgM7DxoTLYM
キセキノサキヘ / monecco5
作詞 武部政則・紫谷星伍
作曲 黒木竜馬

■LINK
monecco5公式HP:http://monecco5.com/
monecco5公式twitter:https://twitter.com/MONECCO5

***

『天草からキセキノサキヘ monecco5の挑戦』

天草四郎が若い命をたぎらせた熊本県天草地方は、熊本市から南西約80kmの位置にある離島である。その島で生まれ育った少女たちで構成されているアイドルグループがmonecco5だ。グループ名の由来は「もね」という天草地方の方言。「来たんじゃないの」という言葉を日常的に「来たもね」と喋る天草のネイティブ感溢れる11歳から19歳の女の子たちは、南国特有の明るさとともに地方育ちの素朴な親しみやすさがある。

とはいえ彼女たちの楽曲は、意外に洗練され、いい意味でローカルアイドルらしくない。ステージで安易に地方の特色を歌うのではなく、ストイックに正統派アイドルを演じるスタイルをmonecco5が貫いているためだ。

活動はすでに4年目を迎え、現在までにシングルCDを3枚、ミニアルバムを1枚自主制作している。

今年の9月に発売されたばかりのシングルに両A面曲の一曲として収められているのが、今回紹介するMVの楽曲「キセキノサキヘ」である。

monecco5の「5」という数字の由来は九州本土と天草を結ぶ「天草五橋」という橋から拝借したのだそうだ。その天草五橋のおかげで自動車での陸路移動は可能ではあるが、それでも天草から県都・熊本市までは自動車で片道2時間の距離がある。天草市内に鉄道はなく、天草上島・下島と合わせても12万人ちょっとの人口。

考えてみてほしい。東京にたとえると、国分寺市ほどの人口だが、面積は国分寺市の約70倍の800k㎡もある。鉄道はなく立川や府中が遠く離れていると考えたらその人口密度の薄さはなんとなくでもわかっていただけると思う。

そのような離島でアイドルグループが活動してきた軌跡がすでに奇跡と言えるだろう。その自負を込めてのタイトルと思われる。

「キセキノサキヘ」はmonecco5のオリジナル曲の中でも、重苦しい緊張感漂う異色の楽曲だ。monecco5のこれまでの曲は、いかにもアイドルらしい、イントロでミックスを打ったり、サビでサンダースネイクを踊りたくなるような曲が多かった。

だからこれまで熱心にmonecco5を聴いていたファンは、今年の5月にこの曲を初めて聴いた時、そのイメージをリセットする冒険に少々戸惑ったものである。

しかし、何度も聴いているうちに、初めに感じた戸惑いこそが、もがき苦しみながらも、夢へ向かって走り続けるmonecco5がシンボライズされた姿を吐露したものであるため、熱心なファンであればあるほどピュアに楽曲の世界に酔いしれている。

奇跡的に天草という離島でアイドルをしているからこその苦しみ。

どこへ進んでいけばいいのかの不安。
 
歌い続ける意味。

その迷いを仲間たちと打ち破り、奇跡を夢見るために努力をする。

繊細な姿のアイドルがそのメッセージを力強く歌うため、心に響くのだ。

それらのメッセージは、MVを見ると更に深みと広がりが増してくるのがうれしい。

MVはmonecco5の本拠地劇場である天草市にあるスタジオ5のステージからスタートする。

ステージに背中を向けたメンバーが並んでいる。定期的にライブが行われ、いつもはmonecco5がキラキラした笑顔をふりまくスタジオ5であるはずなのに、背中しか見えないために言いようのない不安感に襲われてしまう。

キーボードの旋律が空気を揺らし、メンバーの背中が遠くへ行くようにぼやける。

ものが何もない広い部屋に場面が切り替わる。色彩を失ったモノクロの映像。そのシーンを見た瞬間、背中を見た時に感じた不安が的中したような、困った気持ちになってしまった。

そこで見せるメンバーの表情がぐったりと疲れ果てているのだ。うつむいたメンバーもいれば、まるで島原の乱で籠城していた兵士たちのように、絶望と不安に押し潰されそうな表情を見せるメンバーもいる。

その息が詰まるような空気の中で、センターの江上真帆の唇から歌がこぼれる。天草四郎と同じ海を見たであろう透き通った瞳で見つめ、ハスキーな歌声は切実に訴えてくる。

助けを求めるように歌う江上真帆は、まるで海の向こうにいるあなたに届けとばかりに、未だ見ぬキミへ指を向ける。

あなたにここに来てほしいと拳を引き寄せ、MVを見ているキミを引き込もうとする。

そこで画面はスタジオ5に戻る。まるで江上真帆に連れてこられたように、目の前にスタジオ5で踊るmonecco5の景色が広がっている。

スタジオ5のシーンでは、monecco5の組織的なダンスは健在である。ダイナミックにシンクロしたダンスはこのMVでも随所で楽しめる。だが、メンバーの表情に笑顔はなく、ステージの空気は針を刺したように尖っている。いつも楽しいライブをやっているスタジオ5のステージなのに、楽曲のパワーの前では空気がやはり重い。

この重い空気を演出している理由のひとつに、実は「キセキノサキヘ」と他の楽曲との決定的なダンスの違いもあるのだ。「キセキノサキヘ」のフォーメーションは、各メンバーの立ち位置が固定されていて、メンバー間のポジションチェンジがまったくない。それにより、緊張感が極限にまで高まり、空気を他の楽曲とは全く違うものに変えてしまっている。

激しいダンスのステージからタイトルが表示されると、映像は静かな部屋に切り替わる。

イントロダクションが終わると、エースの中西里緒が、葛藤を吐き出すように泣きそうな顔で歌いだす。いま歩いている道が正しいのか、葛藤を投げかける。心の迷いを感じる歌い方だ。

その迷いをリーダーの岡崎伶奈が力強く打ち消す。自分たちの力を、monecco5の力を信じなさいとばかりに強い口調で、この先が答えなんだと力づける。

そしてスタジオ5にまた場面が戻る。monecco5が緊張感あふれるパフォーマンスを見せている。青春を捧げたステージで消耗し、夢に迷った少女たちが輝こうと歌い踊る姿。

その表情には迷いの中で、光を探す挑戦的な力強さを感じられる。

開始から1分30秒ほど。このMVを見ているキミは、monecco5の葛藤や迷いが手に取るように伝わっているだろう。その迷いの中で小さな光を見つけるために戦う姿に心を打たれているだろう。

時にはめげそうになりながらもなんとなく自分の未来を信じて毎日を戦っているあなたは、シンパシーを感じているかもしれない。

どこへ向かっているかもわからずに、がむしゃらに走り続けた若い頃の自分に重ねているあなたもいるかもしれない。

十代の若さを燃やすしかないじれったい毎日。大人が青春と呼ぶその輝きが、葛藤から光ることを忘れていたのを思い出しているあなたもいるかもしれない。

誰もが経験した葛藤を胸に、誰も経験していない奇跡へ向かう少女たちの姿がそこにはある。

間奏に入ると、ひとりずつメンバーの名前が表示される。

名前のあとには、頭を垂れた姿勢から、メンバーがひとりひとり、きれいだが残酷なステージで鬱屈としてきた迷いを振り払うように、顔を上げる。その表情は輝いている。天草四郎がかつて誓ったような決意を、どのメンバーも強い眼差しにたぎらせている。

その決意を回想するかのようにモノクロのシーンに切り替わる。

序章の疲れ切ったメンバーのシーンを思い起こさせるモノクロの場面。

未だ見ぬキミに気づいてほしいとの願いを訴えた江上真帆に、岡崎伶奈が手を差し伸べる。夢のために歌い続けることへ、疲れ切ったメンバーを導くリーダーの手。江上真帆だけではなく、おそらくすべてのメンバーがリーダーの差し出したこの手をつかみ、迷いを払拭したのだろうと想像してしまう。だから、間奏のシーンで、ひとりずつ顔を上げ、その瞳に決意をたぎらせていたのだと。

ここから楽曲は、これまでの葛藤までも照らすほど輝きに満ちてくる。

monecco5がこれからも歌い続ける決意の込められた歌詞が聞こえ、そのためにmonecco5はステージで激しく踊る。

ラストではステージの真ん中で江上真帆が右手を高々と上げ、これからも続けて見せることを宣言する。この姿は痛快だ。

まさに、迷いを解消し、夢に向かって走り出した少女たちの姿だからだ。

誰でも感じる十代の葛藤の中で、誰も成し遂げたことない離島の奇跡へ、傷つきながら走り続けることのリアルがそこにはある。無数の傷を反射させて光るダイヤモンドのように、傷つきながら戦っている少女にしかない、まさに美しい光があふれている。その光は、4分22秒のMVを見れば、遠く離れた天草からでも、あなたのもとへ届いているはずだろう。

monecco5の「5」は、あなたのいる本土とmonecco5のいる天草とを結ぶ天草五橋から拝借しているという話を最初にしたが、天草五橋に関してこんな逸話もある。

雲仙天草国立公園の一角を占める風光明媚な海沿いを走る天草五橋。実はこの橋は1966年に開通したときは2005年に無料化を目指す有料道路だった。だが、天草を訪れる観光客が当初の予想を大きく上回り、わずか9年で償還を完了し1975年に無料化されるという軌跡を残した橋である。

天草の外から協力を得られれば、大きな奇跡を呼ぶことができるはず。だから冒頭で江上真帆は、海の向こう、つまり本土にいるキミに指を差した。

今後、彼女たちが「キセキノサキヘ」傷つきながら夢を連れてくる姿を、あなたは見届けてみたくなるはずだ。

たきび:@takibi110

***

「MIKAN MUSIC VIDEO REVIEW」では、みなさまからの寄稿をお待ちしております。
ルールは特にございませんが、場合により掲載不可となる場合がございます。
掲載希望の方は、下記送付先に
・ご挨拶
・お名前(掲載ネーム)
・SNSアカウント
・レビューしたいMVの詳細・URL
など記載の上ご送付ください。
レビュー送付先 : mail [@] mikan-incomplete.com