【 #MMVR 】うさぎのみみっく!!『シンメトリック』楽曲分析

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「MMVR」とは「MIKAN MUSIC VIDEO REVIEW」の略。主にインターネット上に公開されているアイドルのミュージックビデオ(または音源)についてレビューするコーナーとなります。今回は@DokiDoki_Morinさんから寄稿していただきました、「うさぎのみみっく!!『シンメトリック』楽曲分析」です。

うさぎのみみっく!!

■DATA
シンメトリック
https://www.youtube.com/watch?v=Q8Lb2oLM3HU
うさぎのみみっく!!
作詞作曲編曲:Inagi

■LINK
うさぎのみみっく!! OFFICIAL Twitter:https://twitter.com/usaginomimic
うさぎのみみっく!! OFFICIAL SITE:http://usamimic.com/

***

──はじめに

衝撃的である。音楽的要素、視覚的要素が豊富で複雑に絡み合う。聴いていて、観ていて、こんなにも楽しい。言葉を丁寧に、そして気持ちを自由に旋律に乗せるために機能する変拍子や、心の揺れを表すように慌ただしく転がっていく調性に、詞が遊び回って無邪気にシンクロする。膨大な音楽的情報は複雑に錯綜しているのに、トンマナはきちんと統率され、幾度もアップダウンを繰り返しながらも最終的なクライマックスへ音楽を導いて行く。日本のポピュラー音楽、延いてはアイドルソングとしては異例の8分弱の長さがあるのにも拘らず、終始飽きさせず聴き所満載なのである。

ここまで音楽的に濃密なアイドルソングはそうそう無い。アイドルソングと言えば、旋律や歌詞に力点を置いた、いわゆるホモフォニーのものがほとんどであるが、こんなにもポリフォニックで、且つそれが芸術的に成立しているものは近年耳にした覚えがない。

演者である『うさぎのみみっく!!』は福岡のアイドルグループだが、今年8月に東京・お台場で開催された『みんなのアイドルフェスティバル2017』に出演。そこで話題になり、音楽ライター・南波一海氏も絶賛。

自宅でTwitterをチラ見していただけの私も、この氏のツイートのYouTubeのURLを叩いてみた。

それからと言うものの、何度も聴いた。聴くほどに新しい発見があり、しかし心ばかりが弾んでなかなか頭で整理できないのがもどかしく、持ち前のアナリーゼ(楽曲分析)魂に火が点いた。よって以下、セクションごとに箇条書きしたい。

注1) 楽曲構成の各セクション名については独断と偏見による。楽曲はとても緻密に、また複合的に作られているため、文中には通常とは異なる単語が見受けられるがご容赦願いたい。例えば「Aメロ」「Bメロ」という慣例的な呼称は、この楽曲には適切でないと考えられる。
注2) 各セクションで使用されている一般的でないと思われる専門用語は各セクションごとにト書きしたので参考にされたい。
注3) 各セクション名の傍らに記載の(00:00~00:00)は上記YouTubeのおおよその再生時間である。聴きながら読みの参考にされたい。

 

『シンメトリック』
楽曲分析

 

0. 共通事項

全体を通じて、繰り返される楽曲的各要素、すなわち調性(キー)や旋律(メロディー)、楽句(フレーズ)などは、それぞれ安易にコピー&ペーストせず、バランスを保ちつつ必要最小限に変化されている。これは作り手の豊富なアイディアを感じられると同時に、高次元での心憎い演出であり、この楽曲の格を、世に数多あるアイドルソングより数段し上げている。この事はこの楽曲全体を支配している最大のポリシーなのでは無いだろうか。

また和声的な事を言えば、この楽曲では所々『IVの和音』※1 が中核とも言える場所に配置されており、常識的なドミナント・モーション※2 をもって音楽的断言はせず、サブドミナント※3 が持つ独特な中立感により、柔らかな雰囲気を形成している。

※1 IVの和音: ある調性における4番目の和音。サブドミナント(後述)の役割を持つ。
※2 ドミナント・モーション: 基本的にはドミナント(後述)がトニック(主和音)へ進行する動きの事だが、応用での動きを指す事もしばしばある。
※3 サブドミナント: 機能的和声学における主要三和音、すなわちトニック、ドミナント、サブドミナントのうちのひとつ。トニックにもドミナントにも進行可能である。

 

1. 導入部 (00:00~00:13)

さて、各セクションの曲の分析へ移ろう。SEの後にまず耳に飛び込んでくるのは全音階で、これが否応無しに聴く者を少女特有の内的世界へと誘う。この全音階の楽句を『導入句』([譜例1]参照)とする。これはこの後、楽曲の中間部、終結部で重要な役割を担う、重要なモチーフのひとつである。

[譜例1]

 

2. Aセクション(1) (00:13~01:13)

構成 [提示部1-推移部1, 提示部2-推移部2]

1.の導入部がE♭マイナーのドミナント※4 で終わったと思いきや、同主長調のE♭メジャーの『IVの和音』へ翻るようにひとつ階段を降りてこのセクションは始まる。

Aセクション(1)の構成要素は2つに分かれる。すなわち『提示部』と『推移部』である。さらにこれらが繰り返されてセクション全体を構成している(『提示部』としたのは飽くまでこのセクションの提示という意味である)。このセクションのモットーであるメジャー7th(または9th)コードの織りなす、鏡の向こうと現実のアンニュイな世界が展開され、程良く揺蕩っているところに変拍子で不意を突かれるが、歌詞とのマッチングの良さと説得力があるのでもはや為す術がない。旋律も順次進行や跳躍進行が巧みに織り交ぜられ、痛覚を刺激するような魅力を放っている。

[推移部1]では[提示部1]の同主短調であるE♭マイナーを経由しドミナントで一旦落ち着くが、そこにとあるトラックがなんとB♭メジャー9thの上行アルペジオを冷やかすように鳴らし、このドミナントを腑抜けにしている。続いて、繰り返しの[提示部2]では、直前の[推移部1]でE♭メジャーからFメジャーへ転調、バス・ドラムも4ツ打ちになり、音楽をわずかに高揚させている。

また[提示部2]の『キラキラのプリ(ズム)』という歌詞の印象的な楽句は半音階で歌われるが、この前提として[提示部1]の対応する同様の箇所(00:30ごろ)で別のトラックにより同じく半音階が先唱されている。

慣例的な『Aメロ』というセクションはテーマを起草する性格のため、それほど転調はしないものだ(もちろん例外はたくさんある)が、ここでは巧みに全音だけ上方に転調する。この精緻なイタズラ心が、聴く者にわずかな高揚感と仄かな期待感をもたらしている。

※4 ドミナント: 機能的和声学における主要三和音、すなわちトニック、ドミナント、サブドミナントのうちのひとつ。基本的にトニックに進行しなければならない。

 

3. Bセクション (01:13~01:40)

このセクションに移る直前、テンポがわずかに Meno Mosso※5 し曲調が変化する。このセクションに入る頃にはアゴーギク※6 を味わえ、テンポの変化のみならず、♭系から♯系のDメジャーに転調している。まるで鏡を割った先の世界へ飛び出す光景を見ているかのようだ。その後慌ただしく♯6つのBメジャーへ、 A Tempo※7 になったところで突然♯1つのEマイナーをめぐり、ドミナントをどっしりと構えたかと思った瞬間、同主調※8 の平行調※9 のドミナントにシフトチェンジする。これが真のドミナントであった。

※5 Meno Mosso: メノモッソ。これまでのテンポを遅める楽語(イタリア語)。
※6 アゴーギク: テンポに変化と緩急をつける事によって生じる揺らぎを用いた表現手法。
※7 A Tempo: ア・テンポ。元のテンポに戻る指示を表す楽語。
※8 同主調: 同じ主調を持つ長調または短調の事。例えば、上記のEマイナーの場合、Eメジャーを指す。
※9 平行調: 同じ数の調号を持つ長調または短調の事。例えば、上記のEメジャーの場合、C♯マイナーを指す。

 

4. サビ (01:40~02:14)

構成 [提示部-推移部-転調, 繰り返し]

しかし、ドミナントの支配は覆される。そのドミナントは偽終止※10 に、言い換えれば、Eメジャーの『IVの和音』が鳴らされサビが始まる。ここで私は気づいたが、ここまで、そしてその後もほぼドミナント・モーションの完全終止※11 がないのだ。明確な境目を作らず、度重なる転調で浮揚感を醸し出し、少女の揺れ動く内的世界をあちこちと移動している印象を得るのはそういう理由からではないだろうか。

サビの旋律は『姫SIDE(IVの和音)』『魔女SIDE(IVの和音のマイナーコード)』で対比しつつ、美しい流線型を持っており、以下[譜例2]のようにAセクション(1)の旋律音型をなぞらえている。

[譜例2]

繰り返しでEメジャーの非固有和音で推移を形成して、半音上のFメジャーへ転調。僅かな高揚感を醸し出している。結尾では Meno Mosso や A Tempo をして鏡の世界は現実に引き戻される。

※10 偽終止: Vの和音からIの和音へ進行せず、VIの和音へ進行する終止形の事。
※11 完全終止: Vの和音からIの和音へ進行する終止形の事。

 

5. 第二導入部 (02:14~02:25)

少し Più Mosso※12 し時計の針が逆戻り、1.の導入部が再び現れる。ただ一回目の導入句の開始音はソ♯だったものが、ファから始まっており、♯系、♭系、2種類しかない全音階の♭系を使用している。これらは言うなれば双子である。2番の始まりからもただの繰り返しはしないという強い信念を感じる。

※12 Più Mosso: ピウモッソ。これまでのテンポを速める楽語。

 

6. Aセクション(2) (02:25~02:48)

構成 [提示部 – 推移部]

双子のもう一人の導入句が登場した導入部であったのにも拘らず、A Tempo した Aセクション(2) は (1) と同じくE♭メジャーの『IVの和音』から始まる。また[提示部]の結尾(02:31)頃では新しく 4-2-4-3-3 の、新しい変拍子の組み合わせが舞い踊り、心の揺さぶりが強くなっている。

その後の[推移部]ではE♭マイナーを経由しドミナントに落ち着く。次のセクションではセオリー通りでは『IVの和音』に進行するはすだが……。

 

7. Cセクション (02:48~03:20)

Aセクション(2)からキーは変わらず、このセクションへ突進して来る。ドラムも激しくなり全体的に疾走感のあるセクションである。緩やかだったBセクションとは対照的に、ここでは『急』を以て対比をつくっており、緩急の織り交ぜ方や、俯瞰的に見た時の全体の設計も緻密である。

やがて歌い終わる頃には息も切れ切れになり、たどり着いた先は断崖絶壁かのような場所。クライマックスはディミニッシュコード、つまり暗く悲しげの和音である短3度を3つ重ねた、ミステリアスな印象を与えるコードを4つ打ち込んで錯乱に苛まれる。ところがその最後の和音は同時にドッペルドミナント※13 として機能し、次のステップでドミナントの崖を飛び降りるが、やがて Meno Mosso してふわりと着地する。

※13 ドッペルドミナント: ドミナントへ向かうサブドミナントの性質を強力にした和音。ドミナントのドミナントとも。

 

8. インテルメッツォ (03:20~03:44)

俗に言う『落ちサビ』と言えるかも知れないが、出現の手法・目的が異なり、インテルメッツォ的な意味合いの方が強い。2番目のサビへのクッションとして挟み込まれ、Cセクションの混乱を諌めるには絶対必須な流れであり、存在意義も納得性も十分である。しかしまたもや心揺れる表裏の世界での慟哭がテンポを急がせ、サビへのドミナント(前述の通り厳密には平行調のドミナントである)を生成する。

 

9. 2回目のサビ (03:44~04:16)

1回目と同じくEメジャーの『IVの和音』から始まり、繰り返しでFメジャーへ転調している。伴奏も休符をふんだんに取り入れ、1回目のサビとの差別化を図っている。

 

10. 導入部の展開部 (04:16~04:34)

導入に使われている導入句を道連れに『シンメトリック』という単語に韻を踏む可愛らしいラップに似たボーカルが半音階で上昇しながら展開して行き、間奏への導入を盛り上げる。この半音的上昇する性格は最後のサビにも継承されて現れる。わずかな時間ではあるが、重要な意味を持つセクションである。

11. 間奏 (04:34~05:05)

珍しく転調少なにEメジャーで安定させ、エレキギターを中心に歌わせている。楽曲制作のセンスとテクニックがふんだんに盛り込まれており、当然ボーカルはお休みするが、可愛くも激しい振り付けを楽しめる事が出来る。余談だが、全体的に振り付けもとても可愛らしく、かなり質の高いものだと個人的には感じる。最後へのサビへの助走として平行調のドミナントが長めに鳴らされる。

 

12. 最後のサビ (05:05~06:09)

既出のものとの違いとしては、バッキングの音数が多くなり全体を底上げさせ、ボーカルもオブリガートを絡ませつつ、またEメジャーからFメジャーへ転調する際は推移和音の三度近親調を経由して転調している事であろうか。そして更にFメジャーから半音上方のG♭メジャーに調が上昇し、これをもってこの楽曲のクライマックスを見せる。このセクションの結尾も『IVの和音』がアーメン終止※14 のような役割を見せ、セクションを締める。

※14 アーメン終止: 教会音楽に多用されたIV-Iの終止形。変終止と同義。

 

13. 終結部(コーダ) (06:09~07:39)

一旦はクライマックスを見せたがまだ終わらない。この終結部がまるで交響曲のそれの様に付属する。全音階だった導入句が長音階に変容して現れ、Aセクション、導入部の展開部、サビの楽句が重なり合い、これまでの物語を総括し、第二のクライマックスを創造する。このあしらいがこの楽曲自らの芸術性を否応無しに証明し、存在感を強固なものにしている。この楽曲の真骨頂とも言えるこのセクションだけでも十分にドラマティックである。

 

14. コーダ中のコーダ (07:39~07:50)

長らくサブドミナント中心の構成や、ドミナントは偽終止への進行に支配されていたこの楽曲に、このコーダ中のコーダの直前でボーカルがタイトルである『シンメトリック』を高らかに歌い上げると、ついにV-Iのドミナント・モーションが与えられる([譜例3]参照)。ボーカルが終わり、変容された導入句([譜例4]参照)が完全なる物語の終わりを告げるが、この完全終止のコントラストは、コードの選び方や進め方に、徹底された計算と前提がないと現れない。

最後の最後で初めて現れた完全終止により、当然ながらこのセクション自体もその性質をもっているが、これまで『IVの和音』で作られた柔らかな音感とは打って変わって決然と楽曲が締められ、楽曲は静寂に包まれる。

[譜例3]

[譜例4]

 

──さいごに

もちろんアイドルのステージは総合芸術なので、視覚的効果(容姿、衣装、振り付け、照明等)に依るところも大きいが、音楽のみを感覚的にだけでなく理論的にブレイクダウンして楽しむとなると、こういう事なのではないだろうか。昨今のアイドルソングと呼ばれるものには、無造作に奇を衒っているものも少なくないが、この楽曲はそれらのアンチテーゼとして凛然と輝いているように私には見える。

とは言え、浅学な小生では、機能和声学をもってこのレベルの音楽を語る事には限界があるが、これほどまでに素敵で魅力的な音楽をアフィリエイトなしで観て聴く事ができるのはこの上ない幸せであり、より多くの人も知ってもらいたいという純粋な気持ちが湧いてくるのである。

しかし現メンバーの西野舞里(桃)と小林桃歌(黄)が10月8日(日)、佐賀市にて催される『ROCK PARK SAGA2017』を最後に脱退するとの事、非常に残念である。これまで支えてきたファンと関係者の方々、時間を割いてこれを読んでくれた方々にその想いも込めて、僭越ながらこの検討違いで深読みだらけのアナリーゼを捧げたい。

@DokiDoki_Morin

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